営業活動は「どのような商品・サービスを扱うのか」「どのような営業スタイルを取るのか」によって、プロセスや必要とされるアプローチが変わります。しかし、どのような場合でも“商談の進捗ステータス”を整理し、客観的な基準を設けることで、営業の生産性や管理のしやすさを高められます。以下では、代表的な営業スタイルや取扱商品の違いによるプロセスの考え方と、商談の進捗ステータス設定の例を解説します。
目次
1. 営業スタイルや取扱商品によるプロセスの違い
1-1. 受注型(反響型)営業
- 特徴
- お問い合わせや資料請求、展示会などのアクションを受けて顧客がコンタクトしてくる。
- 顧客がある程度購入意欲を持っているケースが多く、商談化までのハードルが比較的低い。
- 営業プロセスの例
- 問い合わせ受付・リード獲得
- Webサイトや電話での問い合わせ、展示会リードなど
- 顧客情報の整理・ニーズ確認
- 購買意欲や予算感、導入予定時期などのヒアリング
- 商品・サービスの詳細提案・デモ
- オンライン・オフラインでデモや詳細説明を行う
- 見積提出
- 価格や契約条件、導入スケジュールの提示
- 契約・受注
- 問い合わせ受付・リード獲得
- ポイント
- 問い合わせ段階ですでに温度感が高い見込み顧客が多いので、短期で受注に至るケースが多い。
- ニーズが明確な反面、比較検討されている場合も多いため、短期決戦になりやすい。
1-2. 新規開拓型(アウトバウンド)営業
- 特徴
- テレアポや訪問など、営業担当者から積極的にアプローチして顧客を開拓する。
- 顧客側に認知や興味がない場合からスタートするため、商談化までに時間や説得が必要。
- 営業プロセスの例
- ターゲットリスト作成・アプローチ
- 顧客セグメントの選定、テレアポ・メールなどで接触
- 初回ヒアリング(興味喚起)
- 顧客の課題・要望を把握し、興味を持ってもらう
- ニーズ具体化・課題深掘り
- 顧客の現状課題を詳細に分析し、ソリューションを提案できる準備を整える
- 提案・見積
- 具体的に商品・サービスのメリットを示し、費用対効果を示す
- 交渉・クロージング
- 条件調整や契約内容の擦り合わせを行い、受注を目指す
- ターゲットリスト作成・アプローチ
- ポイント
- 見込み客の「顕在化度合い」を高める活動が重要。
- 初期接点を複数回フォローしながら信頼関係を構築し、ニーズを顕在化させる時間が必要になる。
1-3. 小売・個人向け(B2C)商品販売
- 特徴
- 消費者(個人顧客)を対象にしているため、比較的短い意思決定サイクルが多い。
- 店舗販売・訪問販売・ネット販売など、チャネルによって営業行動が異なる。
- 営業プロセスの例(店舗販売の場合)
- 来店誘導・集客
- 接客(商品説明・試用)
- 購入意思確認
- 購入手続き
- アフターフォロー(リピート・口コミ誘導)
- ポイント
- 商品の特長やベネフィットを短時間で伝えられる接客スキルが重要。
- 個人向け商品の場合は、価格やブランド力、口コミが大きく購買意欲に影響する。
1-4. 法人向けソリューション営業(B2B)
- 特徴
- 大型商談や複数の意思決定者が関わることが多く、商談期間が長い。
- 提案するソリューションがカスタマイズ型になる場合が多く、課題分析や要望定義に時間がかかる。
- 営業プロセスの例
- 顧客発掘(インバウンド/アウトバウンド)
- 初回打ち合わせ・課題ヒアリング
- 課題定義・ソリューション企画
- 複数回の提案・デモ・検討会
- 条件交渉・合意
- 導入支援・アフターフォロー
- ポイント
- 長期的な関係構築と複数ステークホルダーとの調整が重要。
- 提案内容を段階的にブラッシュアップし、ROI(投資対効果)やリスク管理を明確に示す必要がある。
2. 商談の進捗ステータスの考え方
商談管理を行う上で重要なのが「進捗ステータス」の定義です。ステータスを明確にすることで、
- 営業チームとしての共通認識を持ちやすい
- どのステータスに案件が多いのかを把握し、ボトルネックを特定しやすい
- 管理者が予測精度を高めることができる
以下は、典型的な進捗ステータスの例と、その考え方です。
2-1. ステータス例
- アプローチ(コンタクト)前
- リード(見込み客)情報はあるが、まだ営業担当から具体的に動いていない状態。
- アプローチ中(初回コンタクト)
- 電話やメール、訪問などで最初の接点を取っている段階。
- 顧客が興味を示しているか、まだ判断できない。
- ヒアリング・ニーズ確認
- 顧客から課題やニーズの引き出しをしている段階。
- “商談化(Sales Qualified Lead)”とみなすかどうかの見極めフェーズ。
- 提案準備・見積準備
- ヒアリングをもとに具体的な提案資料や見積を作成している段階。
- システム導入やカスタム提案なら、要件定義や検証(PoC)をすることも。
- 提案済・交渉中
- 提案や見積を提出済みで、条件交渉や調整を行っている段階。
- 競合との比較や社内稟議など、顧客側の最終承認を待っている。
- 最終調整(契約見込み)
- 価格や仕様、導入スケジュールなどがほぼ合意に近い状態。
- 契約書の締結前後の最終作業、社内決裁を待つフェーズ。
- 受注(受注成立)
- 契約書や注文書が締結され、正式に受注となった状態。
- 失注(クローズ・ロスト)
- 他社との比較で負けた、または顧客の都合でキャンセルになったなど、クローズ(終結)となった状態。
2-2. ステータスを設定する際のポイント
- 客観的な基準を設定する
- 「ヒアリング・ニーズ確認」から「提案準備」へ移行する際に必要な条件は何か?
- 例:顧客の予算や導入時期、意思決定プロセスが明らかになった、など
- 「提案済・交渉中」に進めるには何が必要か?
- 例:正式な見積書や提案書を提出した、など
- 「ヒアリング・ニーズ確認」から「提案準備」へ移行する際に必要な条件は何か?
- 過不足ないステージ数にする
- ステージが多すぎると管理が煩雑になる。
- ステージが少なすぎると精度が落ち、担当営業や管理者が状況を把握しづらい。
- 定期的な見直し
- 市場環境や組織の変化に伴い、適切なステータスの基準は変わる可能性がある。
- 半年〜1年に一度は見直しの機会を設ける。
- “見込み度合い”とステータスは別に管理する場合もある
- 商談の進捗はあくまで「フェーズ」であり、勝率(何%の確度か)は別で管理する方が明瞭になるケースもある。
- 例:「提案済だけど確度は高くない」「まだ提案前だが顧客の温度感が高い」など。
3. ステータス運用のメリットと具体的活用例
- 予測精度の向上
- ステータスごとに受注確度の目安を設定(例:提案済なら30%、最終調整なら70%など)し、月次や四半期の受注予測を行いやすくなる。
- チームでの共通言語化
- 「この商談は提案済だから、次回の打ち合わせでは条件交渉に入る」というように、周囲がすぐに状況を理解できる。
- マネージャーのレビューやフォローアップがスムーズになる。
- ボトルネック発見
- どのステータスで案件が“滞留”しているのかを把握しやすい。
- 例:交渉中で長期間動かない案件が多い → 価格提案や競合対策に課題があるかもしれない、といった分析に活かせる。
- CRMやSFAツールでの管理
- 営業支援システムでステータスごとに管理できれば、集計やレポート作成が自動化しやすい。
- ステータス更新のタイミングをルール化することで、最新情報が正しく反映されるようになる。
4. まとめ
- 営業プロセスは商品・サービスの特性、営業スタイルによって大きく異なる
- 反響型営業なら短期決戦が多い一方、アウトバウンド新規開拓型やB2Bソリューションは長期的な顧客関係構築が必要になる。
- 共通して重要なのは、客観的な基準と定義を持った商談の進捗ステータスを設定すること
- ステータスごとに必要なアクション・確認事項を明確にしておくことで、営業活動全体の効率化や受注予測精度の向上を図れる。
- 進捗ステータスを活用したマネジメントが、営業チーム全体の生産性を底上げする
- ステータス管理を軸に、案件レビューの仕組みや営業支援ツールの活用を進めるとより効果的。
以上が、営業スタイルや取扱商品別のプロセス概要と、商談進捗ステータスの設定・運用の考え方です。
自社の営業フローに合わせてステータスを最適化し、全員が同じ基準で商談を管理できるようにすることで、営業成果の可視化と効率的なマネジメントが実現できます。