はじめに

産業用機械や精密機器を製造・販売するメーカー様の現場で、以下のような課題は発生していませんか?

  • 納入機器の行方不明: 「どの製品」が「どのお客様」の「どの工場」に入っているか、出荷後の追跡がExcel台帳で限界を迎えている。
  • 修理履歴の属人化: ベテランのサービスマンだけが過去の修理経緯を知っており、若手が現場に行くと状況がわからず対応が遅れる。
  • 代理店情報のブラックボックス化: 商社・代理店経由の販売が多く、エンドユーザーの生の声や稼働状況が見えない。
  • 点検漏れによる機会損失: 定期交換部品やオーバーホールの提案時期を逃し、他社にリプレイスされたり、突発故障でクレームになる。

今回は、これら製造業特有の「売った後」の課題を、高機能オープンソースVtigerCRMVTExperts拡張機能で解決する、メーカー特化型の業務改善プランをご提案します。

1. 全体像:製造業向けCRMエコシステム

売り切り型のビジネスモデルから脱却し、アフターマーケット(保守・部品販売)で収益を上げるためには、「顧客」と「機器」を紐付けた管理が必須です。

このシステムでは、展示会での名刺交換から、代理店との協業、納品後の機体管理、そしてフィールドサービスまでを一元管理します。

業務プロセス連携イメージ

graph TD
    subgraph 集客_リード獲得
        A[カタログDL_Web] -->|自動取込| CRM((Vtiger CRM))
        B[展示会_セミナー] -->|名刺スキャン| CRM
        C[代理店からの紹介] -->|案件登録| CRM
    end

    subgraph 商談_受注_商社_代理店
        CRM -->|仕様選定_見積| D[パイプライン]
        D -->|仕様書_見積書発行| E[ドキュメントデザイナー]
        E -.->|商流管理| F[代理店_商社紐付け]
    end

    subgraph 納品_据付_機器管理
        D -->|受注確定| G[納入機器登録_Assets]
        G -->|シリアルNo_設置場所| H[保証書_検収書PDF]
        H -->|QRコード発行| I[実機に貼付]
    end

    subgraph アフター_フィールドサービス
        J[修理受付_コール] -->|チケット化| K[修理案件管理]
        G -->|点検時期アラート| L[定期メンテ案内]
        K -.->|故障傾向分析| M[品質管理_設計連携]
    end

【図解】製造業特有のデータ構造(ER図)

メーカーにとって最も重要な資産は**「どこに、どのシリアルNoの機械があり、保証期間はいつまでか」**という情報です。これをCRMの中心に据えます。

graph LR
    %% ノード定義
    classDef blue fill:#e3f2fd,stroke:#1565c0,stroke-width:2px;
    classDef green fill:#e8f5e9,stroke:#2e7d32,stroke-width:2px;
    classDef orange fill:#fff3e0,stroke:#ef6c00,stroke-width:2px;
    classDef red fill:#ffebee,stroke:#c62828,stroke-width:2px;

    subgraph 顧客_商流
        Vendors(商社_代理店)
        Accounts(エンドユーザー工場)
        Contacts(設備担当者)
    end

    subgraph 商談フェーズ
        Potentials(機器商談)
        Quotes(見積書_仕様書)
    end

    subgraph 据付_資産管理
        SalesOrder(受注)
        Assets(納入機器_シリアルNo)
    end

    subgraph 保守_サービス
        TroubleTickets(修理受付_日報)
        ServiceContracts(保守契約)
    end

    %% リレーション
    Vendors -.->|経由| Potentials
    Accounts -->|設置先| Potentials
    Accounts -->|所属| Contacts
    
    Potentials -->|構成作成| Quotes
    Quotes -->|受注| SalesOrder
    
    SalesOrder -->|出荷| Assets
    Assets -.->|修理対象| TroubleTickets
    Assets -.->|契約対象| ServiceContracts
    
    Accounts -.->|修理依頼| TroubleTickets
    ServiceContracts -.->|期間判定| TroubleTickets

    %% スタイル
    class Accounts,Contacts,Vendors blue;
    class Potentials,Quotes green;
    class SalesOrder,Assets orange;
    class TroubleTickets,ServiceContracts red;

ポイント:

  • Assets(納入機器)モジュール: ここに「製品型式」「シリアルNo」「設置場所(工場・ライン)」「保証開始日」を登録します。
  • TroubleTickets(修理): 故障対応の履歴です。どの機器(Assets)がいつ、どんな原因で壊れ、どう修理したかを記録します。

2. フェーズ別・課題解決シナリオ

フェーズ1:展示会・引き合い対応

【課題】 展示会で大量に集めた名刺の整理に時間がかかり、お礼メールを送る頃には他社に決まっていた。

★解決策:

  • 名刺OCR連携: スマホで名刺を撮影するだけで即座にCRMへ登録。
  • Webカタログ連携: Webサイトでのカタログダウンロードと同時に、担当営業へ通知。どの製品に興味があるか分かるため、初動の提案精度が上がります。

フェーズ2:仕様打合せ~見積(代理店連携)

【課題】 製品のオプション構成が複雑で、新人営業が見積もりを作れない。代理店向けの卸価格計算が面倒。

★解決策:

  • 構成見積の標準化: 本体を選ぶと適合するオプションだけが表示されるように設定し、構成ミスを防止。
  • ドキュメントデザイナー (VTExperts): 「エンドユーザー向けの定価見積(仕様書付き)」と「代理店向けの仕切り価格見積」をワンクリックで使い分けて出力できます。

フェーズ3:納品・据付・機器登録

【課題】 出荷した機械がどこに設置されたか営業しか知らず、数年後に担当者が辞めて情報が消滅する。

★解決策:

  • 設置ベース(Installed Base)の可視化: 納品時に「シリアルNo」「設置場所」を必ずCRMに入力。
  • QRコード活用: 納品書や筐体シールに、その機器のCRMレコードへ飛べるQRコードを印刷。現場でスマホをかざせば、すぐに仕様や過去の修理履歴が確認できます。

フェーズ4:フィールドサービス・保守

【課題】 修理報告書が紙ベースで、写真の整理や帰社後の日報入力が負担。過去の修理履歴が分からず、同じ部品を何度も交換してしまう。

★解決策:

  • モバイル修理報告: サービスマンはスマホから現場で「作業開始・終了」をタップ。交換部品や修理箇所の写真もその場でアップロードし、修理報告書(PDF)を即時発行して、お客様に電子サインをもらえます。
  • 保守契約管理: 保証切れや保守更新の3ヶ月前に自動アラート。部品交換の提案時期も逃しません。

【自動化フロー】修理受付から報告まで

sequenceDiagram
    participant Customer as 工場担当者
    participant CallCenter as 受付窓口
    participant ServiceMan as サービスマン
    participant System as Vtiger CRM

    Customer->>CallCenter: 機械が動かない(電話/メール)
    CallCenter->>System: 顧客・機器(Assets)を検索
    System->>CallCenter: 保証期間内か即座に表示
    
    CallCenter->>System: 修理チケット起票・担当アサイン
    System->>ServiceMan: スマホへ出動通知(地図・症状)
    
    Note over ServiceMan: 現場到着
    ServiceMan->>System: 機器のQRスキャン(過去履歴確認)
    ServiceMan->>System: 作業内容入力・写真アップ
    
    System->>ServiceMan: 作業報告書PDF生成
    ServiceMan->>Customer: タブレットでサイン受領
    System->>Customer: 報告書控えを自動メール送信

3. 導入によるBefore/After

導入によって、属人的だった業務プロセスがデジタル化され、以下のように劇的に改善します。

業務プロセス導入前 (Excel & 紙・属人管理)導入後 (Vtiger & VTExperts・システム化)
機器管理出荷後の追跡不能
(Excel台帳の限界・担当者の記憶頼み)
設置場所・保証期間を完全把握
(インストールドベース管理で検索一発)
見積・仕様書属人的でミス多発
(複雑なオプション構成・計算ミス)
構成ルール化で標準化
(誰でも正確に見積作成・即PDF発行)
修理対応履歴不明で現場混乱
(過去の修理内容がわからず手探り)
QRスキャンで全履歴を即確認
(スマホで過去のトラブル・交換部品を参照)
サービス報告帰社後に報告書作成
(写真整理などの事務作業で残業発生)
現場でスマホ完結・直行直帰
(写真添付もその場で完了・電子サイン受領)
保守売上提案漏れによる機会損失
(更新時期の管理不足・待ちの姿勢)
自動アラートで更新率最大化
(定期点検・部品交換の自動提案・攻めの保守)

4. 最後に

製造業において、製品を納入した瞬間は「終わり」ではなく、**長いお付き合いの「始まり」**です。

VtigerCRMで「機器台帳(インストールドベース)」を構築し、VTExpertsのモバイル機能や帳票機能を組み合わせることで、「売れる営業」と「稼げるサービス部門」の両立が可能になります。

高価な専用フィールドサービスシステムの導入を迷われているメーカー様こそ、柔軟でコストパフォーマンスに優れたオープンソースCRMの活用をご検討ください。