【中小製造業の社長へ】「職人芸」の営業から脱却し、SFAで“勝てる組織”を作る

「うちの営業は、ベテランの◯◯部長がいないと回らない」

「彼が引退したら、あの取引先との関係はどうなってしまうのか……」

もし、社長であるあなたが今、このような不安を少しでも抱えているなら、貴社の営業組織は「時限爆弾」を抱えているのと同じです。

日本のモノづくりを支えてきたのは、技術力と、それを売り込む営業担当者の「泥臭い努力」や「人間関係」でした。しかし、技術の継承と同様に、「営業ノウハウの継承」もまた、多くの中小製造業にとって喫緊の課題です。

本記事では、製造業特有の営業課題を整理し、SFA(営業支援システム)を活用していかにして「属人化」から脱却するか、そしてコストを抑えたツール選びまでを、経営者視点で解説します。

1. 中小製造業の営業が抱える「ブラックボックス化」のリスク

製造業、特にルート営業や御用聞き営業が主体の組織では、以下の問題がより深刻になりがちです。

① 「図面と経緯」が頭の中にしかない

「A社のあの部品、前回の特注仕様はどうなっていたっけ?」「3年前のトラブル対応の記録は?」

これらが全て、担当者の記憶や個人的な手帳にしか残っていないケースです。担当者が不在だと見積もり一つ出せない、あるいは担当者が変わった途端に「前の担当者は分かってくれていたのに」とクレームになり、競合他社に切り替えられる。これは製造業で最も多い失注パターンの一つです。

② 「技術」は継承するのに「営業」は見て覚えろ

工場ではマニュアル化や技術継承が進んでいても、営業部門はいまだに「背中を見て覚えろ」というKKD(勘・コツ・度胸)の世界ではないでしょうか。

製品知識が複雑な製造業において、新人が一人前になるのに3年も5年もかかっていては、人材不足の時代に会社が持ちません。

③ 御用聞きからの脱却ができない

既存ルートを回るだけで手一杯になり、新規開拓や提案営業ができていない。SFA導入の目的は、単なる管理ではありません。事務作業を効率化し、空いた時間で「攻めの提案(VA/VE提案など)」を行う時間を創出することにあります。

2. SFA導入で実現する「組織的な営業」

SFAを導入することで、社長の悩みはどう解決されるのでしょうか。

  • 顧客情報の「資産化」:担当者が辞めても、顧客データ、過去の図面やり取り、値引きの経緯が会社に残ります。会社が顧客を握ることで、担当者の退職リスクを最小化できます。
  • 予実管理の「見える化」:「今月はたぶん大丈夫です」という曖昧な報告ではなく、商談の進捗状況(引合、見積提出、試作、内示)が数値で見えるようになります。工場の稼働計画も立てやすくなるでしょう。

3. 中小企業におすすめのSFAツール比較:コストと特徴

「SFAは高すぎる」「使いこなせない」という社長のために、中小企業に適した3つの選択肢をご紹介します。特に3つ目は、コストを極限まで抑えたい企業向けの選択肢です。

① Salesforce(セールスフォース)

  • 特徴: 世界シェアNo.1。機能の豊富さと拡張性は圧倒的。
  • メリット: 将来的に会社が急成長しても使い続けられる。他システムとの連携も強い。
  • デメリット: 多機能ゆえに使いこなす難易度が高く、ライセンス料も高額(1ユーザー月額数千円〜数万円)。専任の管理者がいないと定着が難しい。

② kintone(キントーン)

  • 特徴: 日本のサイボウズ社が提供。SFA専用ではなく、業務アプリ作成プラットフォーム。
  • メリット: 直感的な操作で、日報や案件管理アプリを自作できる。「Excelの延長」感覚で導入しやすく、低コスト(月額1,500円/ユーザー程度)。
  • デメリット: 本格的なSFA機能(複雑な予実分析など)を求める場合は、カスタマイズやプラグインが必要になる。

③ VtigerCRM(オープンソース版)

  • 特徴: 全世界で利用されている高機能CRM/SFA。特筆すべきは「オープンソース版」の存在です。
  • メリット:
    • ライセンス料が無料: サーバー費用などはかかりますが、ユーザー数が増えてもライセンス料は0円です。社員数が多いが予算は抑えたい企業に最適です。
    • オールインワン: 顧客管理、案件管理だけでなく、**「在庫管理」「見積書作成」「発注書作成」**など、製造業の実務に直結する機能が標準で備わっています。
  • デメリット:
    • 導入・保守には一定のIT知識(サーバー構築など)が必要、または導入支援ベンダーへの依頼が必要です。
    • 公式サポートがないため、トラブル時は自社またはベンダー対応となります。

【社長へのアドバイス】

「まずは小さく始めたい、ITに詳しい社員がいる(あるいは外部パートナーがいる)」なら、VtigerCRMのオープンソース版は、コストパフォーマンス最強の選択肢になり得ます。製造業に必要な「見積・在庫」機能が含まれている点が大きな強みです。

4. 【事例】従業員30名の金属加工メーカーの変革

最後に、ある地方の金属加工メーカー(A社)の成功イメージをご紹介します。

【抱えていた課題】

A社では、創業以来の営業部長が全ての顧客情報を握っていました。しかし、部長が病気で長期療養に入った途端、現場は大混乱。過去の特殊加工の履歴が分からず、見積もり回答が遅れ、長年の取引先から「対応が悪くなった」と叱責を受けました。

【SFA導入後の変化】

危機感を抱いた社長は、SFAの導入を決断。コストを抑えるためオープンソースのシステムを採用し、以下の運用を徹底しました。

  1. 訪問後の「3行日報」: 帰社せずスマホから「誰と会い、何を話し、次はいつ訪問か」だけを入力。
  2. 図面と見積の紐付け: 過去の類似案件を誰でも検索できるようにした。

【結果】

入社2年目の若手営業マンが、ベテラン不在の間に顧客からの技術的な問い合わせに即答。「過去のデータを見ると、御社では前回このスペックで納品しており、在庫も確保可能です」と答えたことで、信頼を獲得しました。

結果として、「誰でも一定レベルの営業ができる」体制が整い、売上は前年比120%を達成しました。

まとめ:決断できるのは社長だけです

「現場が忙しいから」とSFA導入を先送りにすることは、会社の資産(顧客情報)をドブに捨てているのと同じです。

現場は最初、必ず抵抗します。「面倒くさい」「管理されたくない」と。

だからこそ、社長が「これは会社の未来のために必要な投資だ」と言い切る必要があります。

まずはVtigerCRMのようなコストリスクの低いツールからでも構いません。御社の「営業のDX」、今すぐ一歩を踏み出してみませんか。

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