企業がSalesforceから別のCRMへ移行する際、さまざまな面で失敗リスクが潜んでいます。ここでは、以下の3つの観点(機能面、運用面、データ面)に分けて、よくある失敗事例とその原因、さらに失敗を防ぐための対策をまとめました。特に機能面では4つの事例を取り上げ、具体的な課題を提示しています。
目次
1. 機能面での失敗事例
1-1. Salesforce特有の自動化機能が移行先で再現できなかった
- 事例: Salesforce上のプロセスビルダーやFlowなどを活用し、商談や顧客情報に応じた自動メール送信・タスク生成を行っていたが、移行先では同等の自動化が行えず、生産性が大幅に低下。
- 失敗原因:
- Salesforceのワークフローやプロセスビルダーなど独自機能の依存度が高かったにもかかわらず、移行先の機能要件を十分に検討せずに導入。
- 代替手段の開発工数やカスタマイズが大きくなることを想定していなかった。
- 対策:
- 移行前に現行の自動化機能の要件をリスト化し、移行先で再現可能かを調査。
- 必要に応じて外部RPAツールやAPI連携を活用し、同等機能を補完。
- 開発工数・スケジュールを見積もり、段階的なテスト導入で不具合を洗い出す。
1-2. AppExchange連携アプリが使用できなくなった
- 事例: AppExchangeで導入していた見積管理や文書管理アドオンを活用していたが、移行先CRMには同等の連携アプリがなく、業務フローを根本から変えざるを得なくなった。
- 失敗原因:
- Salesforceの豊富なエコシステムに頼った機能を無自覚に使い込んでいた。
- 新CRMのプラグインや外部アプリ状況を調査せずに移行を決定し、代替方法が見つからなかった。
- 対策:
- 利用中のAppExchangeアドオンを洗い出し、移行先での代替ツールや開発手段を検討。
- 開発が必要なら要件定義を行い、コスト・スケジュールを把握した上で移行範囲を確定。
- 本来必要のないアドオンや機能は、この機会に廃止・統合し、システムをシンプル化。
1-3. LightningコンポーネントやApexトリガーが移行先で動かない
- 事例: Salesforce Lightning Web Components (LWC) や Apexトリガーを駆使して大幅にカスタマイズしたシステムだったが、新CRMには同等のプログラミングフレームワークがなく、ゼロから再構築する羽目になった。
- 失敗原因:
- 独自コード(Apex/LWC)に依存しすぎており、標準機能以外を大量に実装していた。
- 移行先にカスタムコードを持ち込むことが難しく、切り替えコストが膨大に膨れ上がった。
- 対策:
- LightningやApexで実装しているカスタム処理を棚卸しし、本当に必要な機能か再評価。
- 移行先で似た機能を標準ワークフローやスクリプトで再実装できるか検証。
- コードを移植する場合は、段階的なモジュール移行と単体テストを繰り返し、リスクを最小化。
1-4. Salesforce標準オブジェクトと移行先CRMのデータモデルが合わず混乱
- 事例: Salesforceはリード、取引先、取引先責任者、商談など標準オブジェクトが分かれているが、移行先CRMではオブジェクト構造が大きく異なり、どのデータをどこにマッピングすべきか混乱。
- 失敗原因:
- 移行先CRMの標準オブジェクトやデータモデルを事前に把握せずに、一律に「Salesforceのオブジェクトと同じように移行できる」と考えていた。
- データ正規化の方針が不明確なまま移行を進めた結果、移行後に大量のフィールドやテーブルが乱立。
- 対策:
- 移行前にオブジェクト構造の対応表を作成し、Salesforce標準フィールドやカスタムフィールドをどこに紐付けるか定義。
- オブジェクトやフィールドの統廃合を検討し、移行先CRMに適したシンプルな構造に再設計。
- テスト移行でデータ整合性をチェックし、問題があれば早期にフィールドマッピングを修正。
2. 運用面での失敗事例
2-1. ユーザトレーニング不足で現場が混乱
- 事例: Salesforceに慣れた営業担当が、新CRMの操作方法を理解できず入力ミスが多発。結果として現場から「前のシステムに戻してほしい」と反発の声が上がった。
- 失敗原因:
- 移行前の研修・トレーニングが十分でなかった。
- 新しいUI/UXに対するガイドラインやサポート体制を整備しないまま本番稼働。
- 対策:
- リードユーザを育成し、部署ごとにトレーナー役を配置。
- 段階的に新CRMへ移行する期間を設け、並行稼働やテスト運用で慣れてもらう。
- FAQや操作マニュアル、動画コンテンツを充実させ、いつでも確認できる環境を用意。
2-2. プロジェクトガバナンス不在で要件がブレブレ
- 事例: 経営層や現場から追加要件が次々と出てきて、機能追加・変更を繰り返すうちにスケジュールや予算が大幅オーバーに。
- 失敗原因:
- プロジェクト責任者が明確でなく, 各部署が独自に要望を出していた。
- 仕様の変更管理がないまま、場当たり的に対応していた。
- 対策:
- プロジェクトオーナーを決め, 要件の優先度と範囲を明確に定義。
- 追加要望は正式な変更リクエストとして扱い、合意を経て検討するフローを確立。
- マイルストーンごとにレビュー会議を実施し、早期にリスクを把握して対策を立てる。
2-3. 運用ルールを見直さずに移行し、データ品質が低下
- 事例: Salesforceでは定期的なデータ更新や入力チェックルールが運用されていたが、新CRMに移行後は同じルールが設定されないまま。結果、データが分散・乱立し、情報の正確性が失われた。
- 失敗原因:
- 移行先の権限設定や入力チェックの仕様を理解せずに運用を始めた。
- Salesforce時代の運用ルールを移行先へ反映しなかった。
- 対策:
- 移行先CRMの権限体系・入力制御機能を確認し、同等のルールを設定。
- 運用開始前に運用手順書を更新し、ユーザに周知。
- 定期的なデータ監査や重複チェックを行い、早期に問題を発見・修正。
3. データ面での失敗事例
3-1. 不十分なデータクリーニングで重複・不要データを大量移行
- 事例: Salesforceで蓄積された顧客データに重複や古い取引先情報が多く含まれていたが、そのまま新CRMに移行したため、移行後の顧客レコードが混乱。
- 失敗原因:
- 移行前にデータクレンジング作業を実施しなかった。
- “移行先でまとめて整理すればいい”という安易な考え。
- 対策:
- 移行対象データを事前に集計・分析し、不要レコードや重複を削除・統合する。
- テスト移行を行い、移行後のデータ品質を確認して問題点を修正。
- 古いデータはアーカイブに回し、必要性が高い最新データのみを優先的に移行。
3-2. 文字コードや形式の違いで大量エラー
- 事例: CSVで一括移行する際に文字化けや日付形式の相違が原因でインポート失敗。再度エクスポート・変換をやり直す作業が何度も発生し、工数が膨大に。
- 失敗原因:
- 移行プロセスでの文字コード(UTF-8 / Shift-JISなど)や日付形式の取り扱いを理解していなかった。
- データを分割してテスト移行するステップを省き、いきなり大量データで本番移行を試みた。
- 対策:
- 移行ツールやエクスポート/インポート時の文字コード・形式を統一し、事前に少量テスト。
- 日付や通貨など型のマッピング表を作成し、Salesforceからの抽出時に適切に変換。
- エラー発生時のログを確認し、原因分析と再移行を計画的に行う。
3-3. 過去すべての履歴を移行しようとして失敗
- 事例: Salesforceに蓄積された10年分の営業履歴やログをすべて移行しようとしたが、膨大なデータ量ゆえに移行作業が長引き、スケジュールが大幅遅延。最終的に移行後のデータ整理も追いつかず破綻。
- 失敗原因:
- “必要なデータは全部移行する”という方針で、データ量と整理方針を定めなかった。
- 新CRM上で大容量データを扱う際のパフォーマンスやストレージ要件を事前に検討していなかった。
- 対策:
- 過去データの取捨選択方針を策定し、直近数年分など必要な範囲を決める。
- 大量データをすべて移行せず、アーカイブ化や外部ストレージ連携を検討。
- 移行時にデータを段階的に読み込むスクリプトやバッチ処理を組み、パフォーマンスを確保。
4. まとめ:失敗を防ぐためのポイント
- 機能面
- Salesforce独自の自動化機能やAppExchangeアドオン、Apexコードなどをどのように再現または代替するか、事前に検討が必要。
- オブジェクト構造やデータモデルの違いを理解し、マッピング表を作成しておく。
- 運用面
- 移行前にユーザトレーニング、権限設定、運用ルールの再定義を行い、現場が混乱しないようにする。
- プロジェクトガバナンスを確立し、要件変更を適切に管理する。
- データ面
- 移行前のデータクレンジングが肝心。重複や不要データを整理してから移行することで、新CRMのデータ品質を高める。
- 文字コードや日付形式などの違いを理解し、段階的なテスト移行を実施してトラブルを早期に発見・対処。
- 過去全てを移行しようとせず、必要データの範囲を明確にして作業範囲をコントロールする。
これらのポイントを押さえて段階的かつ計画的に移行作業を進めることで、Salesforceからの移行リスクを大幅に低減できます。特に、移行前の準備(要件定義・データ整備・プロジェクト体制の確立)とテスト移行の徹底が成功のカギとなります。